水大物語~まあまあ好きな人というポジション~

三年生時のバレンタインデーだった。午前中の講義が終わった後で、サークルの一年女子達が僕を食堂へ来いと呼び出した。

もしや義理チョコか?そんなベタな。

ノコノコとアホ面で行ってみると、丸いテーブルを囲んで4、5人の「アウトドア娘。」達が僕を待ってくれていた。

「せんぱ~い。チョコ作って来ました~☆」

「お!マジで?サンキュ」

予想通り。義理チョコ中の義理チョコを頂いた。ベタ中のベタな展開。

それでも、義理チョコすら獲得することが難しいモテない僕にとっては願っても無い話だった。

無得点。0行進。ホームベースが遠い。どこかの貧打線のように得点の気配すらないイニングが続く中、義理チョコ大量ゲットの展開は素直にうれしい。

これがサークルの部長特権か?テーブルの上に並べられたチョコを囲んでみんなでワイワイキャッキャッしている中、一人まったくの手ぶらの後輩がいるのに気づいた。梵英子(仮名)だ。

「え~!みんなチョコ持ってきたの~?どうしよ~。先輩ごめんなさ~い」

焦る梵。

「ん?なんだ梵。君は持ってきてないのか?ハイハイハイ。君はそういう薄情な子なのね」

「え~!待って下さい先輩!今度、絶対持ってきます!今度!」

「今度って?いつだよ。君は今から実家に帰るんじゃないの?明日から春休みだし。いいよ。もう」

完全に梵を突き放す僕。

それからも「これからみんなでファミレス行こう。梵抜きで」だとか「カラオケ行こうか。梵抜きで」と、梵に対して、あからさまに根暗な意地悪を続けた。

すると、さすがに凹んだのか梵が口を尖らせた。

「先輩・・・私のこと嫌いなんでしょう・・・さっきから意地悪ばっかりして・・・」

ちょっと悪ノリしすぎたか?冗談のつもりだったが、思った以上に梵にダメージを食らわせてしまったようだった。完全にふてくされた梵。攻守交替。今度は僕の方がオロオロする。なんとか梵様のご機嫌を取らねば・・・。

「え?あ、いや、嫌いじゃないんだよ・・・いや、その・・・」

まいったな、こりゃ、と頭をポリポリと掻き、困惑する僕。

そんな防戦一方の展開の中、意表をつくトリッキーなパンチが梵から飛び出した。

伏し目がちなまま梵がボソッとつぶやいた言葉がコレだ。

「私は先輩のこと、 まあまあ好き なんですからね」

はあ?

なんだそれ!

まあまあ好きって何だよ!

そんな、がっかりな褒め言葉あるか?

半ば呆れた僕を尻目に「チョコ絶対渡しますね。じゃ、飛行機の時間なんで」と悪戯に笑って梵は去っていった。

呆れた僕がいたその半面、「まあまあ好き」という、その言葉が僕の耳にこびりつき、リフレインしてしまっていた。



「先輩のこと大好きです」そう言ってくれた後輩もいた。ただ、その「大好き」は、「私、タモリさんのこと大好きなんですよ」だとか「さんまさんが大好きなんですよ」といった若手女優やアイドルのお約束的「大好き」であって、リアルな「大好き」ではない。

だったらむしろ、「まあまあ好き」というポジションにこそリアルを感じないだろうか?

その「まあまあ好き」はどのくらいの「まあまあ好き」なんだ?

遠距離恋愛をしているという梵の本命彼氏と、まあまあ好きレベルの僕とは何ゲームくらいの差がついている?それは逆転可能なゲーム差か?0.5ゲーム差まで追い上げているのか?それとも5ゲーム差まで突き放されたものなのか?どうなんだ?すごい気になるじゃないか!うあああ!!と頭を抱えた僕。

親友のニック曰く「なんだそりゃ?まあまあ好きってことは、まあまあ嫌いってことだろ」と意に介さない。

恋愛マスターのリーダーは「うわ。それ逆に気になってくるの分かるような気がする。今度、使えるかも知れないな」と研究に余念が無い。

僕の中での「まあまあ好き」は「前田智徳はすごく好き。でも、前田健太もまあまあ好き」というポジション取りである。おお!だったら、かなりいい感じのまあまあ好きではないか!!!こいつぁーいける!!という解釈なのである。

一人悶々とした春休みを過ごした中、答えは案外早く見つかった。

梵の中の「まあまあ好き」は、「絶対渡すと宣言した義理チョコの存在を完全に忘れ去り、その後、音沙汰なし」という心理と行動から、20ゲーム差以上ぶっちぎられた感のある、かなりどうでもいい「まあまあ好き」というポジションであることが推察された。以上。



さて。みなさんには、「まあまあ好き」な人、いらっしゃいますでしょうか?

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